突然の知らせ
2004年1月4日(以下は、3日の午後起こった出来事です)
それは携帯に入った1通のメールだった。
母とふたり、お台場で遊んでいた時のこと。
雲ひとつ無い真っ青な空、風も無く1月とは思えないほどうららかなお台場の公園を散歩している時に、大阪にいる私の生徒さんから来たメールを読んで、私の心臓は凍りついた。
それは、訃報だった。
私の主治医であり、人生を導いて下さっていた鍼の先生が亡くなった・・・とあった。
何?
意味がわからない。 誰のこと?
2度3度読み返して、思考が停止した。現実を把握しきれず、悲しいと言う感情もせき止められていた。
とにかく。
とにかく今は、母と一緒にお台場で遊んでいる。
楽しそうな母。
お正月気分で周りはみな穏やかに笑っている。
今は自分を欺かなければ。
もしも、現実を認識して受け入れたら、そこに立っている事もできなくなるほどの悲しみが襲ってくるだろう。
お昼時だったので
レストランに入って食事をした。
何を食べても味がわからなかったが何とか食べ終えて、母に「ちょっと友達に電話してくる」と言い席を立ち、震える手で生徒さんに電話をした。
電話に出た彼女の声も動揺している。
しかも、詳しいことが全くわからないらしい。
帰省から帰って留守電を聞いたら、先生が元旦の夜に亡くなり葬儀は3日の午後に自宅で行うというメッセージが入っていただけだった。
彼女はあらゆる手を使って先生の自宅の電話番号を調べたが、わからなかったらしい。葬儀に行きたくても行けないと言う。
とにかく、何かわかったら連絡してもらうことにして電話を切るしかなかった。
そのあと、母と私は3時から始まる東儀秀樹さんの新春雅楽コンサートを見ることになっていたので会場に向かった。
コンサートが始まり、楽しみにしていた雅楽の美しい音色が響き渡った。
でも、ちょうどその頃大阪では、先生の葬儀が行われているはずだった。
私にできることが、何も無いなんて・・・
先生の冥福を祈る気持ちを、雅楽の音色に乗せるしかない。胸の奥から吹き出してくる悲しみを押しとどめるのに必死だった。
コンサートも終わり、母は嬉しそうに「素晴らしかったねぇ〜」と笑っている。
私も精一杯自分を奮い立たせ、一緒に笑う。
家に帰り
父・弟・相棒とみんなで晩ご飯を食べた。
楽しげに食卓を囲む家族の中にいても、心の中で「なぜ?何が起こったの?」と言う想いがグルグル回り続けている。
とうとうイチかバチかで、先生の携帯に電話をしてみた。誰かご家族の方が出てくれればと思ったが、留守電になった。
それなら、メールは?
もうそれしか方法が思いつかない。
「どなたかこのメールをご覧になったら、どうかご自宅の電話番号を教えて下さい」
返事が来ることを祈るだけだった。
そして夜12時前。
やっと寝室で、相棒と2人きりになって・・・
悲しみが、胸からほとばしり出た。
まだ何も知らない相棒に、「先生が亡くなった・・」と言うのが精一杯だった。
私は生まれて初めて、「慟哭」というものがどういうものなのかを身をもって知った。
あんな泣き方をしたのは初めてだった。
全身が悲しみに包まれて、息ができなくなるかと思うほど肺を振り絞って泣いた。
もし、相棒が手をしっかり握ってくれてなかったら、耐えられなかったかもしれない。
先生・・・・
先生は、私にとってただの「鍼灸師」ではなかった。
2000年(平成12年)の3月8日。
水泳の練習で首筋をひどくねじってしまった私は、ひと月後に開業1周年を迎える先生の元を訪れた。私にとって、生まれて初めての鍼治療だった。
少し緊張気味で医院のドアを開けたとたん、カウンターの奥に座っている先生と目が合った。
その時、たった一瞬で
なぜか私はこの先生なら、自分の全てを完全に任せられる人だと悟ってしまった。
今でも不思議でならないあの時の感覚。
それ以来ほぼ4年間のあいだ、いつも私は先生に救われていた。
それは、体を治して頂くだけではなく、それ以上に心を、魂を、理解し支えて励ましてくれていたからだった。
自分の生き方に自信を無くしている時、先生はいつも「ティダさんは、そのままでいい。今歩んでいる道は間違っていない。」と教えてくれた。
行くたびに、治療の後で色んな本を出してきて「読んでみぃ」と言う。
私は何も言ってないのに。でもそれらは全て、私が知りたいことばかりだった。
先生に出会って、私の心は急激に脱皮していった。いつの間にか私にとって、生きることそのものの意味がそれまでとはぜんぜん違っていった。
私は、生まれて初めて
本当に私を、私の生きる道を理解してくれる人に出会えた。
先生は、私の魂と対話してくれるたった一人の人だった。
なのに・・・・
どうして!!!!
どうして逝っちゃうの!!!!
何が起こったの、何が先生を奪ったの!!!
ほぼ2時間、涙が止まらず泣き続けた
自分の心の半分が無くなった気がした
「先生のところに行きたい」と泣く私を
相棒はずっと抱きしめていた
何も言わず一緒に泣いていた
先生・・・・先生・・・・
どうして・・・・
どうしてですか・・・・
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